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政治、経済を真に動かすのはー握りのエリートではなく、一般市民なのだ、という考え方が折にふれ、とくに大きな問題がある場合には、表に浮かびあがる。
だから、Beltwayastrologers(ワシントンの占星術師、つまり政界観測筋)、Beltwaygossip(ワシントンのゴシップ)、inside-the-Beltwayveterans(ワシントンでの経験の長けた人)、Beltwaybandits(ワシントンの盗賊、つまりコンサルタントたち)、Beltwayissues(一般市民にはあまり関心をという言い方が折にふれて新聞をにぎわす。
目に見えるベルリンの壁はあっけなく崩れたが、目に見えないワシントンを取り巻く壁は簡単には崩れそうにない。
アメリカの新聞や雑誌の記事でMainStreet(メイン・ストリート)とWallStreet(ウォール・ストリート)とを対比させた表現にでくわすことが多い。
WallStreetを知らない人はいないだろう。
ニューヨークのあの金融街。
経済や政治を支配する人たちという意味でも使われる。
MainStreetも直訳すれば「大通り」だから、その大通りを行く人、つまり主流派かと考えたくなるが、実はそうではない。
アメリカの小さな町には、必ずといっていいほどMainStreetが町や村の中心を走っている。
場合によってはMainStreetしかないところがある。
町が小さければ小さいほど、このMainStreetが地につくわけだ。
そこから、MainStreetとはWallStreetの対極にいる地方の人たち、一般の人たち、という意味になる。
MainStreetがこうした意味を持つようになったのはなぜだろうか。
観光ルートから少し外れるが、ミネソタ州の州都セントポールから北西160kmあまり、インターステート・ハイウエー94から降り国道71号線を北に行くとSaukCentre(ソーク・センター)という小さな町がある。
この田舎町の真ん中を通じるのがMainStreet。
とはいっても、店や事務所があるのはほんの数ブロックだけだから、MainStreetの標識しか目につかない。
MainStreetのイメージが典型的に表れているところだ。
1920年に小説MainStreetを発表した作家Rは、この町で少年時代を過ごした。
小説ではGopherPrairie(ゴーファー・プレーリー)という名の町が舞台になっているが、故郷の町を念頭においてこの小説を著したのは間違いない。
Rの小説では、田舎町に残る因習や偽善を風刺し、改革意識の強い女性Cがこの町の医師と結婚して改革を志しながら、結局は田舎の生活に呑み込まれていく話が軸になっている。
だからMainStreetというと、辞書などでは「小都市の平俗単調な実利主義的考え方」とされている。
しかしアメリカの新聞や雑誌の記事で見るかぎり、WallStreetと対比させ、elite(エリート)でもなく、establishment(既成階層)にも属しないgrassroots(草の根市民)でsilentmajority(声なき多数)といわれる一般の人たち、あるいはその考え方という形で使われる場合がほとんどだといっていい。
たとえば、 (1987年と89年の株式相場の下落は長くは続かなかったが、当時とは違って今回の下落は、ウォール・ストリートと同じようにメイン・ストリートにもその影響が感じられるほど長く続きそうである)という形で両者が使われている。
1991年春、N元大統領がソ連を訪問し、まだ力が残っていたG大統領と、そのライバルのEロシア共和国大統領に会って、両者を対比したことがある。
Nはこれを次のように報じた。
Yは予想外の人物だった。
「切れ者」ではないと思わせられてきたNは、Gに挑戦するこの人物が「動物的な魅力」を持ち「軽量選手」ではないと語った。
ふたりを比べNは、Gがウォール・ストリートならEはメイン・ストリートだと評している。
WallStreetとMainStreetを外国の事情の比晴として使った例としては、初めて目にするものだが、ここではestablishment(既成階層)とanti-establishment(反既成階層)という語に置き換えてもいいだろう。
実際、WallStreetは証券市場、世界の金融市場の中心、そこにいる投資家、投資銀行家、野心的な弁護士だけでなしそうした人たちを輩出するestablishmentととらえることができる。
eliteやestablishmentに対する風当たりは60年代から70年代にかけてとくに強くなった。
1970年代の中間選挙で当時のA副大統領がN大統領の考えを反映させ、elitismに徹底的に攻撃をかけて成功した。
そのころ、白人のブルーカラー層の不満を集めて人気を急上昇させつつあったアラバマ州知事のJのことを念頭においての作戦だったのだ。
アメリカの政治で、こうした一般市民、声無き有権者の支持を当てにする動きは常にある。
19世紀の終わりに、困窮する農民の声を集めたポピュリスト党という政治運動がアメリカでは強くなった。
その当時の動きにあやかつて、ポピュリスト的な政治運動を試み、それが急激に勢力を伸ばす傾向はいつの世にもみられる。
考えてみれば、アメリカでは以前から一般市民は神の声であった。
ジャーナリストでもあり政治問題のオブザーパーでもあった小説家のMは、「世論はあがめられ、すべてを解決する」といっている。
Wは世論がすべてを決めてしまうというのは民主政治を危うくすると反論しているが、多民族社会のアメリカではMainStreetが何を考え、何を求めているのかを知ることが政治的に極めて重要である。
F政権時代に厚生・教育・福祉長官を務め、ケッタリング財団の会長だったDは、CitizensandPolitics:AViewfromMainStreetAmericaという書物を出版したことがある。
日米関係でもアメリカのMainStreetがどう動くかを正確にみて、全体の動きを見誤らないようにしなければならない。
MiddleAmerica小説の題から取られたMainStreetという言葉は、かなり象徴的でジャーナリスティックな表現といえるだろう。
いささかわかりにくいこの言葉に実際の内容を盛り込んだのがMiddleAmericaという表現である。
豊かすぎて世俗にうとい金持ち層でもなく、貧しくて生活保護で政府のお世話になっているという人たちでもない。
本当にアメリカの政治を動かしうる大多数のアメリカ人を指す言葉だ。
ソ連邦が崩壊した1991年は旧ソ連の人たちにとって地殻変動の年だった。
それほどのものではなかったにせよ、1968年はアメリカ人にとって大変動の年だった。
ベトナム戦争反対の声が強まって、J大統領はその年の大統領選挙への再出馬をやめざるをえなかったし、公民権運動の指導者だったM牧師と、新しい政治を掲げて強い人気を集めていたK上院議員が相次いで暗殺された。
やはり新しい政治を提唱したU上院議員が、民主党の大統領指名候補争いでワシントン・インサイダーのH副大統領を、あわやというところまで追い詰める。
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